2016年10月14日

敬老パスの交付手数料廃止に、経営的妥当性はあるのか

 橋下市長時代の制度「改正」で、無料だった敬老パスは、(パスの交付手数料として)年間3千円の徴収と、乗車1回ごとに50円が徴収されるようになりました。

 このうち、年間3千円の徴収の廃止検討に吉村市長が言及したとして、次のように報じられました。
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敬老パス 大阪市、自己負担金の廃止検討
毎日新聞 毎日新聞 2016年10月11日 19時57分(最終更新 10月11日 19時57分)
http://kizi2osaka.seesaa.net/article/442726387.html

 大阪市営地下鉄・バスの「敬老優待乗車証」(敬老パス)について、吉村洋文市長は11日、利用者の自己負担金3000円の廃止を検討する考えを示した。市議会での「利用者が減っており、制度の趣旨が達成されていない」との指摘に答えた。民営化の実現後、新会社による負担を示唆した。

 市いきがい課によると、70歳以上の市民を対象にした敬老パスは1972年の導入以来、乗車料金を市が全額負担する完全無料制度を維持してきた。しかし、橋下徹前市長時代の2013年からパスの交付手数料として、利用者から年間3000円を徴収。14年からは、乗車1回ごとに50円を求めている。

 無料だった12年度末には約33万8000人あった利用者数は、15年度末は約24万5000人に減少。同日の公営・準公営決算委では「負担金が利用の辞退者を増やす要因。負担の廃止を検討すべきだ」との質問が出た。吉村市長は「例えば、新会社が利用者を増やすため『販売促進費』的なもので負担すると考えれば、3000円の負担をなくすことができる」と述べた。
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 吉村市長は「例えば、新会社が利用者を増やすため『販売促進費』的なもので負担すると考えれば、3000円の負担をなくすことができる」と述べたとされますが、敬老パス交付手数料の新会社負担(=現行なら、交通局負担)に、経営的妥当性がある可能性は、本当にあるのでしょうか?

 24万人の3千円の交付手数料を地下鉄会社(または交通局)が負担すると年間約7億円、33万8千人まで増加するとして、年間約10億円の負担となります。
 この年間7〜10億円を地下鉄会社(または交通局)が負担するとして、敬老パスの交付数が増加し、敬老パスの地下鉄利用が20億円とか、30億円とか増加する(=増収になる)と見込めるなら、経営的妥当性があるといえます。
(ただこの場合、20億円とか30億円とかの収入増の多くの部分は、大阪市の(敬老パスの)福祉予算の増額で賄われることになるので、財政負担増の裏返しであることは注意する必要があります。)

 経営的妥当性が成立するかの一つの境界は「10億円の負担に対して10億円の収入増が見込まれるか」であり、これを下回っての経営的妥当性はあり得ません。
 ただし「10億円の負担に対して10億円の収入増が見込まれる」だけでは、原価ゼロでなければダメなので、まだ経営的妥当性があるとは言えない。やっぱり、20億円、30億円の増収程度は示される必要があると思います。


 では、次に敬老パス交付手数料の地下鉄会社(または交通局)負担で、「10億円の負担に対して10億円の収入増が最低限見込まれるのか」を考えてみます。

 まず、現行の敬老パス利用者24万5000人について、交付手数料3千円の負担を無くしても、地下鉄会社(または交通局)の増収は見込めません。現行の敬老パス利用者24万5000人は、交付手数料3千円の負担が無くなっても、地下鉄利用を増加させることには何も繋がらないからです。

 なので、敬老パス交付手数料の地下鉄会社(または交通局)負担で増収になるのは、現在敬老パスの交付を受けていない人で、交付手数料3千円の負担がないなら、交付を受けようとする新規利用者の利用分ということになります。

 交付手数料の廃止で利用者が、無料だった12年度末の33万8000人にまで、増えると仮定します。この場合、新規利用者は9万3千人です。
 「10億円の負担に対して10億円の収入増が最低限見込まれる」ためには、9万3千人の新規利用者が平均年1万円程度(10752円)利用する必要があります。

 でも敬老パスを年1万円も利用するなら、元々年3千円の交付手数料を支払っても、現在も敬老パスを利用してると考える方が妥当性があります。
 年3千円の交付手数料廃止による新規利用者の平均利用額が、年1万円に達するとは考え難く、「10億円の負担に対して、収入増は10億円を(大きく)下回る」と思われ、敬老パス交付手数料の地下鉄会社(または交通局)負担の経営的妥当性は、考え難いと思うのです。

(また、新規利用者の平均利用額が年3千円として、新規利用者が敬老パスを利用していない現状も年2千円、地下鉄を利用しているなら、敬老パス新規利用による増収は年1千円である点も注意が必要です)

 もう一つ傍証として、敬老パス無料当時(平成22年度)の利用額分布を挙げておきます。
0〜5千円未満(利用無しを含む)41.9%
5千円〜1万円未満 11.4%
1万円〜2万円未満 13.4%
2万円〜3万円未満 8.2%
3万円〜4万円未満 5.5%
4万円〜5万円未満 4.0%
5万円超 15.6%

 敬老パス有料化後の未利用に移行した28%の多くは、年間利用額0〜5千円未満(利用無しを含む)41.9%から出ていると考えられるので、その未利用者が新規利用者に戻っても、平均利用額が年1万円に達するとは考え難いです。


 吉村市長は「例えば、新会社が利用者を増やすため『販売促進費』的なもので負担すると考えれば、3000円の負担をなくすことができる」と語るのですが、費用分の収入増も見込めないのでは、経営的妥当性はありません。
 結局、敬老パス交付手数料の地下鉄会社(または交通局)負担による廃止は、「経営判断」の美名の下に、福祉目的の支出を、民営化を目指すとしている地下鉄会社に負担させるとする、かなり歪な施策と言えます。

 勿論、地下鉄の利益は現状も市民のものなので、利益の市民還元として、敬老パスの年間3千円徴収部分を負担するというのは、ありえなくはありません。
 ただそれなら、「受益と負担の公平」みたいな半端な理屈を振り翳して、敬老パスの年間3千円徴収などせず、最初から交通局に負担させる程度の検討をきちんとして、敬老パスの有料化を決めてくれと言いたいが。

 更に「地下鉄を株式会社化したら、敬老パスの3千円徴収廃止を検討」みたいに結び付けられていることに、怒りを覚えます。
 地下鉄利益の市民還元としては現状もできることですし、株式会社化の考え方からすれば、福祉負担的な市民還元は、現状の公営よりもやり易くなることはありません。
 それなのに、市民に不利益になる(と考える人も多数いる)「地下鉄の株式会社化」を、「地下鉄の株式会社化」と直接関係無い「敬老パスの3千円徴収廃止」をセットにすることで、市民に押し付けようとしているようで(=市民のお金を市民に不利益を押し付ける道具に使われているようで)、大変不快に思うのです。
posted by 結 at 02:09| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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